大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎家庭裁判所 昭和51年(少ハ)1号 決定 1976年2月13日

少年 O・K子(昭三〇・一一・二四生)

主文

在院者長尾孝子を昭和五一年五月二〇日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

本件申請理由の要旨は、本件在院者は昭和四八年一月二三日詐欺事件で当裁判所において中等少年院送致の決定を受け、肩書住居地の筑紫少女苑において収容教育を受けたのち、同四九年七月三一日仮退院したが、一ヶ月足らずで生活が乱れ、家出、不純異性交遊、詐欺、売春等の非行を重ねたため、同五〇年二月二〇日当裁判所において期間を一年間と定めて中等少年院に戻して収容する旨の決定を受け、前記少年院において収容教育を受けている者であるが、右収容の期間が同五一年二月二〇日に満了となるところ、本件在院者は右少年院において禁止されている不正物品授受、不正交遊等度々規律違反をする等その性格矯正はいまだ充分でなく、又入院当初の個人別指導目標も達成されていない。さらに在院中の他少年と住所メモの交換、出院後の交遊を約する等現時点での出院は出院後直ちに非行、犯罪につながるおそれが大きい。

又保護者は在院者の従前の非行による弁償等で生活に困窮し、出院後の指導に自信を失つており、在院者の引受に消極的である。よつて在院者の教育効果を十分挙げるために最少限三ヶ月の収容継続を必要とすると思料し、本申請に及ぶというにある。

よつて、前記少年院分類保護課長中内純子、同教務課長鶴田房子及び当裁判所調査官守屋正直の各意見、その他本件審判の結果並びに少年調査記録等を検討するに、本件在院者は昭和五〇年二月二四日入院し、右少年院処遇段階「二級の下」から矯正教育を受けはじめ、格別問題なく約三ヶ月で「二級の上」に進級した。しかし「二級の上」において、同院で禁止されている特定の在院者との交通を行つたため、苑長訓戒の懲戒処分を受ける等あつて、予定の三ヶ月の課程を約二ヶ月遅れて同年一一月一日に「一級の下」に進級した。「一級の下」においては禁止されている在院者間の物品授受等九回の規律違反を行い、謹慎五目間の懲戒処分を受けた。その後さらに在院者間文通の違反をして謹慎二日間の懲戒処分を受けた。本件在院者は現在「一級の下」の処遇段階にあり、今後約三ヶ月間の「一級の上」の段階と約一ヶ月間の出院前特修課程を残している。

したがつて、最終処遇段階の終了をもつて一貫した矯正教育を行つている少年院において、本件の如く中途の処遇段階で退院させることは少年院教育の目的を十分達することができないから、当該在院者の出院後の社会適応を困難にするおそれがある。

さらに、本件在院者は他罰的考え方が強く、自己統制力に欠け、退院すればすぐ家出をして遊び回りたいというような言動をするなど非行に対する反省が不十分である。

また、本件在院者の家庭は実父・母健在ながら、本件在院者の従前の非行による弁償等もあつて生活に困窮し、再非行をおそれて、その退院後の受入には消極的態度を示している。

しかして、右の如く当裁判所の認めた諸事実及び情状を併せ考慮するに、少年院在院者が少年院における処遇段階「一級の上」の如き最終処遇段階に至つていないことは当該在院者の犯罪的傾向がいまだ矯正不充分であり、社会復帰には不適当であると一応認めるに足る徴証ではあるが、個々的には最終処遇段階に達していない場合でも退院させることが本人に好ましい結果を得ることもあり得ると思料されるから、右の事実のみでは収容継続を認めるに十分ではないといえる。

しかし本件在院者の場合は、現時点での退院が本人にとつて好ましい転機となる情況になく、むしろ最終処遇段階の矯正教育が未了の現在、少年院側はもちろん、在院者本人、引受家族もある程度の期間の収容継続を是認していること、前記の諸事情によれば、本件在院者の現時点での退院は再び非行、犯罪を行うおそれがあることを考慮すれば、本件在院者を右少年院において今後少なくとも三ヶ月間矯正教育を継続して受けしめることが、本人の退院後の健全な社会復帰をなさしめる上に必要であるものと判断される。

しかして、収容継続処分は在院者が本来退院すべき時期に退院させるのを不適当とする場合に、在院者の保護目的を達成するため認められる制度であるから、戻収容決定による少年院在院者に対しても在院者の保護育成のため収容継続をなしうるものと解する。

よつて、本件申請は理由があるから、少年院法第一一条第四項を類推適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 須山幸夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例